はじめに
偽装請負を未然に防ぐことは、発生後の是正コストや社会的信用の毀損を回避するうえで極めて重要です。特に人手不足下で外部人材活用が進む現在は、契約書の内容と実態の乖離によって、知らぬ間に偽装請負の判断基準に抵触するリスクが高まっています。本記事では、未然防止のための注意点と対策を、チェックリストと事例(判例・行政指導)を交えてわかりやすく整理します。
契約と実態を一致させることの重要性
偽装請負防止の基本は、契約書に記載された内容と現場の実態を一致させることです。
- 請負契約の場合は、あくまで「成果物の完成」が目的であり、請負業者が労務管理と責任を担います。発注者は成果物の検収のみを行い、日常的な作業指示や勤怠管理をしてはなりません。
- 派遣契約であれば、発注者が労働者に直接指揮命令を行うことが認められていますが、派遣元は許可を取得し、派遣法の規制に従う必要があります。
契約内容と実態の乖離は、善意であっても偽装請負の判断基準に該当しうるため、注意点を明文化した運用ルールと対策の整備が不可欠です。
具体的なチェックリスト事例
厚生労働省が示す防止指導を参考に、企業が自己点検できるチェックリストの具体例を挙げます。
1. 指示命令の主体は誰か
発注者が外部労働者へ直接の作業指示を行っていないか。
2. 勤怠管理の主体は誰か
勤務時間・残業・休憩を発注者が管理していないか。
3. 責任の所在
成果物や業務の完成責任が請負業者に明確に帰属しているか。
4. 現場管理者の配置
請負業者の責任者配置と日々の業務管理が機能しているか。
5. 混在作業の有無
外部労働者が自社社員と区別なく同じ指揮系統で働いていないか。
6. 契約書の明確化
契約書に「請負業者が指揮命令権を持つ」旨、および注意点が明記されているか。
複数に該当する場合は、偽装請負の判断基準に照らして対策の再設計が必要です。
判例・行政指導の紹介
偽装請負は過去に数多く摘発・是正指導されてきました。
製造業のケース
大手自動車メーカー系列工場で、ライン長の直接指示が確認され、労働局が偽装請負として是正指導。一部は派遣契約への切り替えが求められました。
IT業界のケース
SES契約のもとでエンジニアが常駐していたが、実際には発注者がタスクや納期を管理。労働者が「派遣法に基づく保護が受けられない」として訴え、裁判で偽装請負と判断された事例があります。
物流業のケース
倉庫内の仕分けで発注者の現場リーダーが直接の業務指示。厚生労働省の調査後、是正勧告が出されました。
いずれも契約書と運用の実態の不一致が共通点で、偽装請負の判断基準/注意点を外した運用が原因です。
教育と啓発の必要性
偽装請負は、現場の知識不足や部門間の連携不全からも生じます。ライン長・現場監督が派遣と請負の違いを理解し、契約部門と同じ判断基準・注意点を共有しているかを定期的に点検しましょう。
研修・マニュアル整備により、契約書の趣旨(指揮命令の線引き)を現場運用へ落とし込み、未然の対策を定着させることが重要です。
専門家に相談するメリット
偽装請負の防止には、労務管理や契約法務の専門知識が求められます。社内で完全に対応するのは難しいため、社会保険労務士や弁護士、コンサルティング会社に相談するメリットは大きいです。
- 契約書レビュー:請負契約・派遣契約の適正性を専門家の視点でチェックできる。
- 現場ヒアリング:実態と契約が一致しているかを客観的に診断できる。
- 改善提案:契約の切り替えや体制整備の具体策を提示してもらえる。
- 行政対応:労働局からの調査や是正勧告に対し、適切な対応を支援してもらえる。
特に過去に判例や行政指導の事例を扱った経験のある専門家は、実践的なノウハウを持っているため、未然防止に大きく役立ちます。
今後の展望
コンプライアンス/ESGが重視される今、偽装請負の未然防止(対策・注意点の徹底)は、法令遵守にとどまらずブランド価値・採用力を高めます。
行政調査(労働局)や訴訟に発展した場合のコストは大きく、予防が最も費用対効果に優れます。透明性のある労務管理は、社内外の信頼を強化します。
まとめ
未然防止の核心は、契約書と実態の一致・運用ルールの整備・派遣との正しい使い分け・自己点検(チェックリスト)・教育・専門家の活用です。
判例・行政指導の事例に学び、厚生労働省の指針を踏まえた判断基準/注意点を日常運用に落とし込めば、リスクは大幅に低減します。
「自社は大丈夫」という思い込みを避け、対策を仕組み化することで、健全で持続可能な労務環境を築けます。